おすすめの美術館が増えました―ブリヂストン美術館

momoneko42006-01-11

こってこての古くさい展覧会、好き。人気のない綺麗な美術館だとなお良いっす。
ゴッホとか北斎とか、ピョンピョン飛んでも見えないし人ごみに流されて戻れない。そんな展覧会も体験的には良いけど、やっぱり印刷物じゃない実物があるんだもん。じっくり向き合いたいです。ということでそんな体験が出来る美術館。
そろそろ放置をやめて書くぞー。


ブリヂストン美術館「常設展示 印象派と20世紀の美術」


http://www.bridgestone-museum.gr.jp/<<
 ブリヂストンビル1階のエントランスを入り、受付前のエレベーターで2階へ。2階のフロア全体がこの美術館の展示室です。全部で10の展示室があり、エレベーターを出ると、彫刻が陳列される廊下を中心にそれぞれの展示室の入り口が見えます。室内は白色の壁紙、やや黄味がかかった照明が程よく調節してあり、全ての部屋に座り心地の良いソファや椅子が置いてあります。展示室内の雰囲気はフランスのオルセー美術館を思い起こさせます。ブリヂストン美術館は天井高が低めですが、作品の展示位置もやや低めの145cmに合わせられているため 疲れにくく、大変見やすく感じました。平日に行ったので館内は空いており、仕事帰りや買い物帰りと思われる人たちがゆっくりと作品を鑑賞していました。気に入った作品があったら足を止め、ソファに腰を下ろし、心ゆくまで作品を堪能することができます。ゴッホ北斎などの人気作品を人波にもまれて鑑賞するのとはまた違い、作家が作品に残した痕跡や意図をじっくり眺めることができるでしょう。

 さて今回の展示は、常設展示「印象派と20世紀の美術」と題し、コレクションの中から、コロー、マネ、ルノワール、モネなどの印象派セザンヌ、ゴーガンらのポスト印象派、そしてピカソマティス、ルオーらの20世紀の画家たちの作品を中心に据え、他にも日本の近代絵画作品、特に今年で没後50年目をむかえる安井曾太郎の作品をまとめて公開しています。

 数ある作品の中でも、展示室に入るなりすぐ目に飛び込んでくる作品がいくつかありました。
 第一展示室、クールベの「雪の中を駆ける鹿」(1856-57年頃)は、クールベの熟練とも言える程の筆さばきや、シーンの捉え方、構図、どれをとってもその優れた技量には舌を巻いてしまいます。クールベは絵画の図像をよりリアルなものにするために、写真を使ったといいます。ディテイルを写真に負けじとばかりに描き込み、克明な描写を何層にも重ねたので、彼の絵はとても重々しいものが多いのですが、この「雪の中を駆ける鹿」という作品は、雪の積もった白銀の丘の裾を鹿が駆け抜ける様子を、とても軽やかに表現しています。クールベは19世紀フランスのレアリスム(写実主義)の旗手として知られています。クールベは「自分は生きた芸術をつくりたいのだ」と「レアリスム宣言」の中で語っています。彼の意図は、単なる古典絵画の模倣ではなく、神話や物語の世界を離れ、今の時代の風景、人々、現実を自分の感じたままに描くということでした。21世紀の今日から見れば当然のこのような考え方も、19世紀の保守的な市民たちにとっては、驚くべき革新的なものでした。

 コローの「森の中の若い女」(1865年)は、薄暗い木々をバックに、右側面から明るい光をうけて立つ若い女性が立っています。少しはにかんだような微笑みと表情。これらを繊細な筆づかいと色の微細な組み合わせによって、巧みに表現しています。肌や身につけている衣服の質感や、女性の肉体のどっしりとした存在感、目の表情などがくっきりと描かれ、まるで彼女が生きてそこに存在しているかのようです。図録の解説によると、この絵が描かれた19世紀後半は産業革命が進展する中で、自然なるものへの憧れと郷愁とが都市市民層に急速にひろがり、絵画の世界においてもこれにこたえる傾向が生まれました。コローに代表されるフランスのバルビゾン派や、ミレーもこの流れに属します。このコローの作品も、有名なモデルにフランスの農民の服装をさせて描いたもので、けして現実の農婦を描いたものではないといいます。

 他にもいくつか印象的な作品を挙げていくと、ルノワールの「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」や、モネの「黄昏、ヴェネツィア」などは、これまで何度も画集でみた作品でしたが、目前に彼らの筆の跡、マチエールの盛り上がりや質感、絶妙な色のグラデーションを見るとき、やはり実物と印刷との徹底的な違いを実感します。マネ、ルノワール、モネら印象派の画家たちは、変化し続け崩れ消えてゆくものの一瞬を捉え、キャンバスに絵具をのせていきました。光、水、風、それらの動きが彼らの筆跡として画布に留まり、それらはまるで今もなお動き続けているかのような錯覚を与えます。これこそが作品の持つ真の「力」であり、名画として人々を長らく惹き付け、魅了してやまない所以でもあるところなのでしょう。

 ブリヂストン美術館は、第1展示室からほぼ年代順に作品が展示されています。各部屋にはテーマがふってあり、「第1室 西洋絵画の伝統と近代芸術のめざめ」「第4室 印象派の時代」「第5室 印象派以後」「第6室 マティスとフォービズム」・・・といった具合に、部屋を進むにつれて解り易く美術史の流れを汲むことも出来ます。展示室を進むにつれ、セザンヌ、ゴーガン、マティスゴッホらが求めていった新しい表現の方向性が提示され、ピカソという20世紀の巨匠が登場し、やがて時代が抽象絵画を生み出していく様が、次々と展開されていきます。

 他にもブリヂストン美術館では、開館以来続いている土曜講座、学芸員によるギャラリートークや親子向けのファミリープログラム等、数々の講演や教育プログラム等が行われています。展示室の途中には、情報コーナーという図書が閲覧できるスペースがあり、過去の展覧会カタログや美術館発行の美術書などを自由に見ることができます。私はここにあった本の中から「ピカソの『腕を組んですわるサルタンバンク』の下絵には隠されたもう一人の人物が描かれている」という項目を見つけ、つい熱心に読みふけってしまいました。また、開館時間が10時〜20時まで(日・祝は〜18時まで)と長いのも魅力的です。JR東京駅、地下鉄は京橋駅日本橋駅からも近いので、仕事や買い物の途中でふらりと入るのも良いかと思います。おすすめの美術館です。


・・・てきとーかな・・・